トルシエの中田評

船橋洋一のインタビュー

トルシエ ……日本ではスターだったが、ヨーロッパに出たらただの人になる。そうすると、日本人の考 え方、文化では『メンツを失う』ということになってしまう。だから、ヨーロッパに行ったけれども試合に出なかった選手が日本に戻ってくると、サングラスを かけて、ちょっとカッコいいジーンズでもはいて、『スター!』という恰好をして、どうしても……自分をスターふうにこしらえてしまう。中田の例をとってみ ましょうか。昨年、彼はイタリアで何試合出ましたか。でも、日本から見れば、全試合出たのと同じなんですよ。1分出場したとしても、その写真を日本のマス コミが撮ってきて、それを1000回も流すじゃないですか。そうすると日本から見れば『おお、スターだなあ』と思う。まあ、これは日本のやり方だから、中 田が悪いわけではないんです。しかし、もっと静かにしておいてやったほうが、彼のためには良かった。すばらしい資質をもっているんですから。イタリアでの 中田は普通の選手か、ちょっと悪いんじゃないかくらいの選手として、とらえられている。日本では現実とのズレが生まれている。マスコミの責任だと思います ね。

船橋 だけど、それでも中田はスターから日本のチームのリーダーへと、それなりに成長したんじゃない ですか。

トルシエ いいえ、それは間違いです。

船橋 間違い?

トルシエ 中田は日本チームのリーダーではありません。あくまでもマスコミによって中田はリーダーに されています。代表チームのリーダーではないのです、彼は。まあでも、せっかく子どもたちがそういう夢を見ているのでしたら、夢をそのままにしておいて やったほうがいいとは思います。