羽中田との対談  

number401号(1996年)インタビュー記事
羽中田昌vs中田英寿(当時19歳)

羽中田:アトランタが終わって行く前と違って気持ちの変化があったのかな。
中田:同じですね。思ったよりもあんまり凄くなかったから・・・。
羽中田:どういう意味で凄くなかった?
中田:やっぱり技術面とか、ですね。
羽中田:俺、何試合か中田君のプレー見せてもらったんだけど・・・。
中田:オリンピック行ったんですか?
羽中田:いや、テレビとビデオでブラジル戦とか見せてもらったんだけど、もうナンバーワンだと思ったね。 今、日本で世界に通用する選手は誰かと言ったら、やっぱり中田君じゃないかなって。見てると常 に自分がフリーで貰える位置に居て、ゴールに一番近道ができる奴だなというふうに俺は見えた
んだけど。自分のプレイについてはどういうふうに思っているのかな?
中田:うーん。まぁフリーでもらうっていうのがね、楽でいいけど。でも、あんまりドリブルも上手くないし、 得意なフェイントを持ってるわけでもない。状況によってはドリブルで持って行きますけど、基本的に 一対一は好きじゃない。あまりプレッシャーがかかったプレーとか得意じゃないから必然的にそうせざるをえないんだけど・・・。
羽中田:中田君は効率よくサッカーをするっていうのが基本なんだね。実はね、この間、スペインの「ゴール・ ゴール」っていうサッカー番組の中で中田君のことを紹介していたんだよ、「日本の星」とかいうこと  で・・・。その時、スペインの友人が居て、俺は、「後輩だよ」って言いたかったんだけど、後輩っスペイン語分からなくてさ。アミーゴ、アミーゴとか言って自慢したんだ。中田君は海外でサッカーやりた いと思う?
中田:海外のサッカーはあまりというか全くというほど見てないですね。見る機会も少ないですし。
行くか、行かないかということに関しても、それ相応の条件をもらわないと行く気はない。
羽中田:お金の面で?
中田:うん、まぁ周りの環境もあるし、どういう態勢で受け入れてくれるのか、というのもあるし・・。そういう面である程度(条件)よくないと、あまり行く気はしない。
羽中田:それほどサッカーに対して情熱は持っていないんだ。
中田:ないですね。
羽中田:俺なんかからすると、これだけ素晴らしい選手なのに勿体無いなっていうのがあるんだよね。 それに今の中田君を見ていると、このまま日本の中でやっていたら終わっちゃうなって感じがする。
だから、外国で違う環境の中でサッカーというものに接してもらいたいなって思っているんだけど。
中田:それは向こうからオファーがないと始まらないですから。
羽中田:まぁそうだけど。
中田:イタリアにも短期留学したけど、練習生じゃ試合に出られないし、やはり向こうから望んで呼んでもらわないと行く価値がない。
羽中田:自分で競争して、みたいなことは?
中田:うーん。そういう感じでも、やっぱり呼ばれるぐらいでないと・・・ね。
羽中田:ヨーロッパなんかの選手だとスペインの2部リーグから入って活躍して、トップに上がってお金を稼ぐというか、サッカーを楽しむためにそういう努力をしている選手がいるんだよね。だからただ呼ばれないから行かないんじゃなくて、自分から売り込むってこともできるって思うんだけど。
中田:そこまでは考えてないですね。
羽中田:非常に勿体無いね。
中田:そのため(自分を売り込むための)のオリンピックであり、ワールドカップであると思っているから、オリンピックはメダル取りに行く場じゃないし、そんなの要らないしね。自分の評価を高める場であるから。
羽中田:俺なんかはやっぱり違うんだよね。オリンピックとかワールドカップっていうのは勝負しに行く場、チームとしてね。そう俺は考えてる。でも五輪の選手は自分のためにサッカーやるって言ってたよね。俺の考えだと、まぁ最終的にはやはり自分のためにサッカーやると思うんだ。でも、ヨーロッパの選手は、もう少し意識が高いかなって思う。彼らはやっぱりファンのために、応援してくれる者のためにやるって発言するんだよ。それはどうしてかと言うと、自分のためにやってしまうと自分の中で限界ができてしまう。妥協してしまうって言うんだ。そこでファンのために、応援してくれる人のためにっていう気持ちでいれば、もうワンランク上のレベルでサッカーができる。ファンのためにプレーするという意識でいた方がレベルが高いと思うし、進んだ考え方じゃないかと・・。だから、あの五輪での発言というのはちょっと古臭いなかなって思ったけどね。
中田:俺は、それに対してどうこう言う気もないし。別にそれを押し付けられる必要もないと思う。みんなそれぞれ考え方があるからいいと思います。ただ俺に言わせれば、ファンのためなんてことはね、いくらでも口ではうまく言える。だけど、絶対に思っていることは自分のためだってことですよ。
羽中田:最終的には、自分のためだけどね。
中田:問題は、かっこいいこと言って適当にうまくやっていくか、ということで、ファン云々というのはあまり関係ないと思いますよ。
羽中田:俺はスペインに行ってファンというものに対する考え方がすごく変わった。スペインはファンを大切にしているなって思う。でもJリーグだとファンの人たちを疎かにしているなって部分が感じられるけど、中田君にとってファンってどういうものなのかな?
中田:簡単に言えば固定客ですか。
羽中田:そのまんまだね。
中田:僕自身にとってはファンは必要ないし、見に来てくれる人だけいれば、応援してもらう必要はない。別に励みにも・・・・ね。
羽中田:プロというのはファンが見に来てくれてお金を出してくれる。それで生活が成り立つものだと思うけど・・・。
中田:それは、応援してくれる人であるか、観に来てくれる人であるか、という違いだと思う。
    見に来てくれる人は必要ですけど、応援してくれる人は必要はない、と思う。
羽中田:でも、ファンは応援したくて、選手のいいプレーを見たくて来ているんだよね。
中田:いいプレーは見せますけど、応援してくれ、とは要求していませんからね。
羽中田:そういう考えで、これからの日本のサッカーって育っていくのかな?
中田:日本のサッカーのことは考える必要はないんじゃないかな。やっているサッカーが面白ければ人は集まると思うし、それはサッカーの内容であって、ファンへの接し方ではない、と思う
羽中田:やっているサッカーが面白いって言っても限界があると思うけど。
中田:限界が来たら終わりでしょ(笑)
羽中田:常に面白いサッカーを見せていかないといけないんだけど、やはり応援されてレベルが上がっていくと思うんだよね。

      • 中田君はファンについて本当に意識しないんですか?

中田:うん。まぁ悪く言ってしまえばブーイングというか言葉や文句が分かるでしょ。それで頭に来て しまうことが多いね。外国だとブーイングがなにか分からないでしょ。勝手に言ってろって思うけど。別に褒められるためにやっているわけじゃないけど、試合中に文句言われると調子狂 ってきちゃうんだよね。頭にきちゃったりして。

      • カッカするんだ?

中田:そう。文句言われるとマイナスに働いてしまう。だから国際大会でブーイングされて居る方が
、まだいい。

      • あのブラジル戦のような感じの?

中田:あれはうれしいですね。逆に燃えますよ。あそこまでボロクソに言われると・・・。でも、国内だと例えばこの前の柏戦でも何も悪いことしていないのに文句言われてドンドンやる気なくした。何か俺悪いことしたかなぁって思ったよ。ほんとに。ちょっと間違えてね、相手を倒したとかさ。ほんとに走っていく上での間違いだったりしてもスゴイ文句言われるしさ、こっちは気分悪くなっちゃうよね。 羽中田:ところで全然話し変わるけど彼女とか居るの?サッカーが恋人なんてことは絶対にないよね。
中田:それはないですね。
羽中田:今、どんなこと楽しい?
中田:マンガ本を読んでいるのが楽しいかなぁ。別にサッカーイコール人生じゃないし、それに賭けてるわけじゃない。マンガは何でも読むし、週に5,6冊は買っているかな。「ヤンジャン」は結構いい と思うけど、「ジャンプ」とか最近落ち目だね。

      • 最近のヒットは?

中田:本宮ひろ志の作品は面白い。「男一匹ガキ大将」とか・・・。
羽中田:けっこう男くさいやつじゃん。
中田:まぁ男くさいっていうか。でも面白いですね。
羽中田:「ソフィーの世界」だっけ?それは何の本?
中田:哲学書。イタリアに行った時に読んだんですよ。800ページぐらいあるんだよね。
羽中田:なんか聞くところによると、中田君は以前学校行く時ひとりで違う車両にのって、本読みながら 通ったらしいけど。
中田:それは作り話ですよ。違う車両に行ってまで、わざわざ読まないですよ(笑)。

      • さて、来年はいよいよW杯予選が始まります。お二人とも、これからの日本代表についてどう考えていますか?

羽中田:将来的にはJリーグだけじゃなくて外に出ている選手も集めて、メンバー表を見ても所属チーム がFCバルセロナとかになっていたらいいですね。あとは監督の目指すサッカーをやってもらって世界と勝負して欲しい。
中田:俺は特に無いです。代表はほんとに時の運みたいなもんだと思うし、各年代のエリートだと思う。 選ばれたいからといってお金を払っても入れるわけじゃないし、入りたくないって言っても呼ばれる 人は呼ばれるだろうからね。かといって、どこでどうがんばっても入れるという保証がないんで・・・。

      • でも今まで各年代の代表に入ってきているわけですよね。

中田:うん、まぁ運がよかった。でも、ここらへんで一気にユースに落ちようかなぁ。目標はワールドユースですって(笑)。でもフランスも(代表)に呼ばれて試合に出て、初めて意識するものだから。代表でやってみたいと思うけど、思っても選ばれないとしょうがないし、選ばれても試合に出られなきゃしょうがないしね。行ってもベンチじゃつまらない。監督の好き嫌いもあるし、その時のコンディションの状況もあるからね。だから代表にも選ばれなかったと思う。
羽中田:でも西野監督もよく選んでくれたよね。雑誌とかで中田君がやる気ないみたいなこと言っているの知っていたわけでしょ。
中田:俺は、何を言おうと結果が出ればいいと思う。周りの人が何を言ったって、どう批判されようと、結果を出す選手だったら(試合に)出さないとおかしいし、それを自分の感情や世論で出さないと判断するのは馬鹿 らしいしいことだよ。今回(五輪)だって23歳以上(オーバーエイジ)使えるものを世論に従って止めようと言うのじゃおかしいしね。うまい選手であれば入れればいい。だから、(選手起用が)情に流されたりすることは、ほんとに馬鹿らしいことだと思うし、愚かなことだと思う。
羽中田:グラウンドで結果を出せればそれが全てってことだよね。でも、サッカーってひとりじゃできないわけだよね?
中田:ひとりではできないけれど、チームにプラスになるものであれば入れるべきだと思う。例えば、試合で個人プレイに走ってみんなが何もできなくて悪い結果が出たなら、たとえうまくても外すのが当然。でも凄いわがままであってもひとりで10人抜く力があるのであれば絶対にメンバーに入れるべきだ、と思いますね。

    • 中田君は勝敗よりも常に自分のプレーが試合の中でどうだったかというのが

  原点になってるわけですよね?
中田:Jリーグでも試合に勝とうが負けようが自分のプレーができればそれでいいと思う。
   でも、Jリーグの場合勝ちにこだわりすぎる部分が多いからつまらないサッカーになる
   ことが多いね。もっと両チームともに相手のいい所を潰して勝とうというより、自分の
   いい所を出して勝とうということを考えたほうがいいと思うんだけど。
羽中田:それはその通りだと思う。イタリアのサッカーだと相手のいい所を潰してという感じ
     だけどスペインの場合は自分のいい所を見てもらおうとしているからね。先に相手
     を潰してじゃなくて、先に自分を表現しようとする。それで俺はスペインが一番面白
     いリーグだと思っているんだけどね。俺も勝負にこだわるより、プロスポーツなんだ
     からファンを獲得して、喜ばしてっていう方を支持しますよ。勝てばいいってもんじゃ
     ない。
中田:いいプレーをしてね。みんな盛り上がってくれれば。それが自分たちにも伝わってくるしね。

      • 初めて意見が合いましたね。

羽中田:レベルは違うけど俺も高校までサッカーやってて、昔は中田君みたいな感じだった気
がするなぁ。その当時、なんか生意気なやつだった気がする。自分でも生意気だと思う
でしょう?
中田:別に。一番素直に生きているだけ。周りの連中が作りすぎていると思う。それで楽しいの
かなぁ。それでうまくやっていければいいのかもしれないけど・・・。だから記事でどう書かれようが、どう批評されようが自分がよければいい。媚びてまで生きようとは思わないです。
羽中田:別に媚を売る必要なんか全然無いよ。中田君なんかドンドン言って、相手から逆に
     言ってもらえればいいなと思いますよ。
中田:でも最近は結構言われますよ、いろんなこと。

      • そういうの聞こえてくるんですか?

中田:もう間近で聞こえてきますよ。そのうち危害加えられないかって心配で(笑)
羽中田:そんなことはないでしょ、話なんだから、議論なんだからさ。喧嘩しているわけじゃないんだから。
中田:でも実力行使とかありますからね。それだけは怖いですね(笑)
羽中田:でも、なんか話をしていると他の世界に行ったほうがいいような気もするね。サッカーなんか捨てちゃって、本当に自分のやりたいことに賭けてさ。その方がもしかしたら才能あるかもしれない。 中田:その足掛かりを作るために、サッカーでいろんな人と知り合いにならないと・・・。
羽中田:そうだね。でも、なにかやろうとした時、思い切っていくのもある意味大切かなって思うけど・・・。
中田:要領よくやらないと(笑)。サッカーが全てじゃないので。
羽中田:なんか大変な人生になりそうだね。
中田:うん、なんかね。でも、これでも苦労はしてるんですよ。結構脳天気に見えても悩んだりしているん ですから。
羽中田:なんか、最後になってやっと本音が出たなって感じですね。