ピッチ外でも戦犯

文藝春秋『Sports Graphic Number 631』より

コンフェデレーションズカップ・メキシコ戦に備えた紅白戦のとき、中田は加地を呼びつけて、説教するかのように一方的に話し続けていた。

報道陣はそのことを加地から聞きだそうとしたが、いつも嫌な顔ひとつせずに率直に質問に答える加地が頑なに内容を明かさなかった。

初戦、日本はメキシコの老獪さの前に1対2で敗れた。ただ右サイドの攻撃が今までにないほどに機能した。

1点目の柳沢のゴールは、加地の正確なクロスによるものだった。その他にも加地は24分、42分にシュートを放っている。メキシコのラポルペ監督が「右サイドバックの攻撃が脅威だった」と語ったように、この日の加地はいつになく大胆だった。

試合後に加地はこう語った

「相手の左サイドの選手は、そんなに守備がうまくないっていうのが頭にあったので、とりあえず仕掛けてみようと思ったんです。監督の指示ではなく、自分でそれは考えましたよ。ビデオを見たら、相手が結構前に出てきてたので、うしろを突ければいいと」

第2戦のギリシャ戦でも、加地の攻撃は冴え渡った。14分には相手をフェイントでかわしてクロスを上げたし、19分にはサイドネットに当る惜しいシュートを放った。加地が絡んだプレーは、ことごとくチャンスにつながったのだ。もう彼の活躍は偶然ではない。

試合後に加地はこう語った

「クロスの上げ方は、変えてないですよ。今までとの違いはテクニックではなく、気持ちの差だと思う。クロスでもシュートでも、最後のフィニッシュの正確さが増してきた。最近は右サイドバックでも、シュートを打っていかないとね。そういう時代になってきているから(笑)。自分を変えていかないと」

中田が右ボランチに入って以来、練習でも、試合でも、加地は怒鳴られ続けてきた。ピッチを俯瞰したような中田の視点にそぐわない動きをすれば、すぐに呼びつけられて新入社員のように説教される。だが、中田の言葉をききながら、加地は加地で、自分の仕事を整理したに違いない。だからこそヒデに言われたことをそのまま報道陣に伝えても意味はない、と考えたのではなかろうか。

今大会の加地は、クロスやシュートに迷いがない。迷わなければ、プレーのタイミングがほんのわずかだけ速くなり、いい結果につながる。今度はそれが確信になり、失敗への恐れは消えていく。

中田が右ボランチに定着したことは、加地の攻撃力ということに関してはマイナスに働く可能性があった。ジーコはメキシコ戦前の紅白戦で、レギュラー組を全員センターサークル付近に集めて、こう指示した。

「守備から攻撃に移ったときのバランスに気をつけろ。ボランチが上がったスペースをカバーしないと、カウンターを食らうぞ」

加地の守備の負担は、今までより間違いなく増していた。だが、この縛りが逆に、少ないプレー機会のときに、何かをやってやろうという気を起こさせた。1回の攻撃にかける思いも集中力も、格段に強くなったはずだ。

今までの加地は、ジーコの言う『自由』の怖さ=責任の重さ、に捕らわれて、チームの中でバランスを保つことばかりを考えていた。だが、中田の的確な指示で、具体的な『自由を発揮するポイント』が見え始め、今ではその怖さを抱えながらも、加地は目の前に広がる広大な右サイドを駆け始めている。

怖さを抱えて、いつまでも立ち止まっていては、ジーコの意図は足かせにしかならない。次に『自由の壁』を破るのは誰だ?









そしてこの試合、ほぼ全てのチームメイトから前にあがりすぎ守備しろとダメだしされてたのが中田さんwwwwww